日本酒は稲作農耕文化が始まった頃から、
米を原料にした酒造りが何らかの形で存在したに違いない。

奈良県櫻井市三輪にある大神神社には、
酒の神である大国主命が祀られ、酒の神様として全国の酒造業者の信仰を集めている。
さらにその境内には大神神社の掌酒(サカビト)に任ぜられた
高橋活日命(イクヒノミコト)を祀る活日社があり(日本書紀)、
また延喜式には狭井社の神酒に関する記述がみられる。
奈良と日本酒が如何に関係深いものかを窺い知る事ができる。

しかし、ここで言う日本清酒の発祥とは、現在で言うところの清酒、
すなわち現在の卓越した製造技術が開発された起源を意味するのである。

加藤百一著『酒は諸白』より引用すれば、
日本酒つくりは、中世寺院で興った僧坊酒の系譜に連なり、
戦国の世、奈良の正暦寺で創世された「諸白」にその原型を求めることができる。

南都諸白が、当時第一等酒として世人から好評を博したことは、
『本朝食鑑』や『大和本草』から明らかである。
いずれにしても、奈良流の製造法が南都諸白の名とともに
全国に流布したのはまず間違いない。

これらを原点にして、
さらに3段仕込みや酒母、上槽、火入れなどの製法が開発された訳で、
日本清酒の起源は菩提山正暦寺の菩提泉にみる事ができると言えるのである。

奈良県 菩提山正暦寺
奈良県 菩提山正暦寺

菩提酛開発

清酒発祥の地・奈良正暦寺で室町時代に盛んに製造された僧坊酒の一つである菩提泉を、現代に復活させようとするプロジェクト「奈良県菩提もとによる清酒製造研究会」が平成8年にスタートしました。

奈良県の酒造メーカーの有志、奈良県工業技術センター、菩提山正暦寺、天理大学附属図書館、樋口松之助商店、その他関係者が主なメンバーでした。

室町時代の「多門院日記」や「御酒之日記」をはじめとする文献資料を参考にしながら、試行錯誤を繰り返し、その製造メカニズムの研究などに取り組みました。

菩提酛開発

それらの結果、ある種の乳酸菌がその重要な役割を果たしている事をつきとめたのです。そして、正暦寺の境内から、「菩提もと」の製造に適した乳酸菌と酵母をスクリーニングする事に成功し、さらに総合的な製造方法を確立する事により、再現性よく高品質な「菩提もと」の製造に成功しました。

そして平成10年に室町時代の名酒「菩提泉」を500年ぶりに復活させ、各社が「菩提もと清酒」として商品化することに成功し、全国から注目を浴びました。

その後毎年、正月の上旬には初度の仕込み、及び二度の仕込みを行い、正暦寺で製造された「菩提もと」を酒母にした菩提もと清酒の製造が、研究会会員の酒蔵で行われています。

また最近では酒母そのものを商品化し、酸味のきいた「菩提泉」も販売しています。

奈良県菩提酛による清酒製造研究会